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忌野清志郎の頭の中(3)反原発表現。 [音楽(忌野清志郎)]

1988年、反原発ソングや反原発をイメージさせる曲、
騒動になりそうな曲が含まれていることで、
RCサクセションのアルバム「カバーズ」は発売禁止になった。
その際、忌野清志郎は、発売元の東芝EMIと何度も
話し合ったといわれている。
この騒動に関しては、真実がすべてあきらかに
なってるわけではないので、あくまでも想像だが、
清志郎は反原発のサマータイムブルースに関しては、
発売できないことを了承していたのではないか、という気がする。
それは、反原発ではないと主張する
「ラヴ・ミー・テンダー」発売禁止への怒りをあらわにし、
アンサーソングをつくってるから。
そして、次のアルバムで、
反原発ソングは収録しない、という東芝EMIの意向を
あっさり受け入れているからだ。

 カバーズの後で、何を歌っちゃまずいのか先に
 言っといてくれって言ったんですよ。
 そうしたら原発のことと天皇を
 誹謗中傷することだけは歌わないでくれという答えだった。
 じゃあマリファナとか反戦とかはいいですねって
 訊いたら、いいって言うんで、
 それで早速……(忌野清志郎)

         永遠のバンドマン」志田歩コラム
        「ロックで君が代を歌う理由」より


しかし、清志郎は、カバーズの「ラヴ・ミー・テンダー」のように
反原発か、反原発でないかのグレーゾーンでの攻防を
再び東芝EMIと繰り広げることになる。

ところで、問題となった「ラヴ・ミー・テンダー」は、
反核ソングなのか?反原発ソングなのか? 歌詞はこんな内容だ。

ラヴ・ミー・テンダー (訳詞:忌野清志郎)

何言ってんだー ふざけんじゃねぇー
核などいらねぇ
何言ってんだー よせよ
だませやしねえ
(略)
放射能はいらねえ 牛乳を飲みてえ
何言ってんだー 税金かえせ
目を覚ましな
たくみな言葉で一般庶民を
だまそうとしても
ほんの少しバレてる その黒い腹
             (全歌詞)(you tube


確かに、原発という言葉は出てこないので、
清志郎の主張通り、反核ソングととらえるのが自然なのかもしれない。
「核兵器などいらないだろう、ふざけるな。
 核施設ではいろんなものを垂れ流しているだろ、
 だませやしないぞ」
と訴えてる歌詞とも受け取れる。
ただ、当時はチェルノブイリ原発事故の2年後、
原発の安全神話が崩れかけた時代。
反原発ソングではないという主張は、極めてグレーだと感じる。
「だまそうとしても」という言葉は、
「原発と核兵器はまったく別で安全だ
 とだまそうとしても」と解釈することもできる。
(ちなみに、リリース後、行われたライブでは、
歌詞の一部をいじって、原発イメージを高めている)

しかし、清志郎は、あくまでも反核だと主張し、
その後、アンサーソングをつくっている。

君はLOVE ME TENDERを聴いたか? (作詞:忌野清志郎)

君はLOVE ME TENDERを聴いたかい?
ボクが日本語で歌ってるやつさ
あの歌は反原発の歌だって
みんな言うけど
違う 違う それは違うよ
あれは反核の歌じゃないか
よく聞いておくれよ
核はいらないって歌ったんだ

それとも原子力発電と核兵器は
同じものなのかい
発電所では核兵器もつくることが
できるのかな
まさか まさか そんなひどいこと
してるわけじゃないよね
灰色のベールのその中で
またそんなことしてるのかな
(以下、略)(you tube)(you tube)


忌野清志郎と東芝EMIとの攻防の第二幕は、
「カバーズ」リリース前に行われた野音ライブでスタートする。
発売中止の怒りを、そのパフォーマンスで表現したのだ。
演奏された曲は、カバーズ収録曲や新曲。
新曲は、カバーズ延長上の過激なもので、
その中の一曲がオープニングを飾ったこの曲。
ボブ・ディランのカバーだ。

アイシャルビーリリースト (訳詞:忌野清志郎)

頭の悪いヤツらが 圧力をかけてくる
あきれてモノも言えねえ 
またしてもモノが言えない
権力を振りまわすヤツらが
またわがままをいう
オレをだまらせようとしたが
かえって 宣伝になってしまったとさ
(略)
日はまた昇るだろ 東の島にも
(略)   (全歌詞)(you tube


この曲を歌った後、清志郎は、
「宣伝になりゃいいってもんじゃねえ、一生忘れねえぞこの野郎」
と叫び、次の曲サマータイムブルースにつなげたそうだ。

そして、この日のライブを収録した
カバーズの続編のようなアルバム「コブラの悩み」が
再び東芝EMIから発売されることになった。

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今回も、清志郎と東芝EMIとの
攻防があったようだが、
無事発売が決まった。収録は12曲。
カバーズからは「明日なき世界」だけだったが、
過激な内容の歌も収められた。
「アイシャルビーリリースト」
「軽薄なジャーナリスト」、アンサーソング
「君はLOVE ME TENDERを聴いたか?」などだ。

言うまでもなく「君はLOVE ME TENDERを聴いたか?」は
問題になり、スペシャルショートバージョン、
 君はLOVE ME TENDERを聴いたか?
 ボクが日本語で歌ってるやつさ
 あの歌は…………… 
で終わっている。
しかし、前述したように原発ソングのNGは
了解していたわけだから、これは想定内。
まずい部分を削ることでOKしたんだろう。
あえて、ショートバージョンで収録したのは、
圧力がかかった、という証拠を残したかったのではないか。
「どうだ、こんなことしたら、かっこわるいだろ、東芝EMI」と。
そして、オリジナルバージョンの存在も
示しておきたかったのかもしれない。

オープニングの「アイシャルビーリリースト」は、
「カバーズ騒動」への回答のような歌。
清志郎は、歌詞に出てくる「東の島(日本)」の部分を、
あきらかに東の芝(東芝)と言い替えて歌っている。
この曲の収録を実現させたのもすごいと思うが、
極めつけは、なんといっても、この曲だ。

軽薄なジャーナリスト (作詞:忌野清志郎)

軽薄なジャーナリストにはなりたくない
軽薄なジャーナリストにはなりたくない
いくら落ちぶれてもなりたくない

軽薄なジャーナリストはTVにでて
軽薄な指示どおりに台本を読む
そしてギャラをもらって家族を養う
(略)

マスコミ、ジャーナリズムへの痛烈な批判だと感じる曲だが、
実は、この曲、驚くような結末が待っている。

(略)
軽薄な人間にはなりたくない
軽薄な国民にはなりたくない
いくら落ちぶれてもなりたくない

軽薄なジャーナリズムにのるくらいなら
軽薄なヒロイズムにのるくらいなら
そんな目にあうくらいなら……
あの発電所の中で 眠りたい
全歌詞)(you tube)


はじめてこの曲を聴いたとき、
まさに鳥肌が立った。
カバーズ騒動のリベンジ、清志郎の答えはこれだった。

「ラヴ・ミー・テンダー」がダメなら、これでどうだ!
原子力発電所という言葉をまったく使わず、
反原発ソングをつくりあげた。原発の恐怖を訴えた。

「そんな目にあうくらいなら」の後に続く、
誰もが連想するであろう常套句、
「死んだ方がましだ」を見事に置き換えた。

「あの発電所」、そして「眠りたい」。
特に、この最後の言葉を導き出せるソングライターが
他にいるだろうか?
見事としか言いようがない。

表現の自由を奪おうとする圧力に、
忌野清志郎は、表現力で勝負したのだ。
そして勝利した。

東芝EMIは、もうこの男には勝てない、
と思ったのではないか。
清志郎のラジカルさは、この後、
覆面をかぶった別人格となって、さらにヒートアップする。

(敬称略)



4へ続く







(以下の本から引用させていただきました)

忌野清志郎 ~ 永遠のバンド・マン ミュージックマガジン






コブラの悩み

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  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: EMIミュージック・ジャパン
  • 発売日: 2005/11/23
  • メディア: CD




コブラの悩み-COBRA IN TROUBLE- [DVD]

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