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忌野清志郎の頭の中(8)ぼくらは薄着で笑っちゃう。 [音楽(忌野清志郎)]

忌野清志郎の生誕60年を記念して、Tシャツが発売されることに
なったようだ。ユニクロと7組のアーティストによる、コラボ、
「忌野清志郎 PROJECT Love & Peace & 」だ。
Love & Peaceという言葉に、アーティストがひとつの言葉を
加えたデザインTシャツ。盟友、仲井戸麗市はGUITARを加えた。
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「Love & Peace」は、忌野清志郎が
歌い続けたテーマのひとつ。「愛しあってるかい?」という
言葉で表現し、ステージから呼びかけたりもしていた。
歌として有名なのは、やはりこの曲だろう。


イマジン (訳詞:忌野清志郎)

天国はない ただ空があるだけ
国境もない ただ地球があるだけ
みんながそう思えば
簡単なことさ

社会主義も 資本主義も
偉い人も 貧しい人も
みんなが同じならば
簡単なことさ

(中略)

誰かを憎んでも 派閥を作っても
頭の上には ただ空があるだけ
みんながそう思うさ
簡単なこと言う

(中略)

夢かもしれない
でもその夢を見てるのは
君ひとりじゃない
夢かもしれない
でも一人じゃない (ぼくらは薄着で笑っちゃう)
夢かもしれない  (ああ 笑っちゃう) 
かもしれない   (ぼくらは薄着で笑っちゃう)
         (ああ 笑っちゃう)
         (ぼくらは薄着で笑っちゃう)
you tube)


ジョンレノンの代表曲「Imagine」に、
忌野清志郎が日本語をあてはめた曲。
オリジナル以上に感動する、と絶賛されている曲だ。
ジョンレノンの歌詞には、
「殺す」(Nothing to kill or die for)
「宗教」(And no religion too)
「平和」(Living life in peace)など、戦争を
イメージさせるストレートな言葉が使われている。
参考)(参考

しかし、清志郎バージョンはそうではない。
「国境」や「社会主義、資本主義」などの言葉が出てくるだけだ。
なのに、清志郎のこの歌を聞いて、
パッと反戦、Love & Peaceという言葉が
思い浮かぶのは、「Imagine」のイメージがすでに頭の中に
あるからだろう。
清志郎は、そのことを意識しながら、
この歌詞を書きはじめたのではないだろうか。
そして、「戦争」や「平和」という言葉を使わずに
「Imagine」を日本語化しようと考えたのではないか。
日本には、戦争好きな「オトモダチ」がいる。
しかし日本自体は、戦争を忘れてしまったかのような国。
「戦争」や「平和」という単語が出てくると、
リアリティがなくなり、この曲のメッセージが
日本人には、遠いものになるだろう。

清志郎のイマジンで印象的なのは、
曲の最後の方で、歌にかぶるように流れてくる
「ぼくらは薄着で笑っちゃう」というコーラスだ。
「薄着」とはなんのことだろう?
オリジナル「Imagine」のイメージが頭にあると、
なんにも武器を持たないという意味、
つまり非武装ととらえることもできる。
その夢とは、非武装で笑い合えるような世界のことだろうか。
しかし、そうならば、「笑っちゃう」ではなく
「笑ってる」になるはずだ。
「笑っちゃう」だと、薄着であることを
笑ってるという意味になり、あきらかに違和感がある。
では、なぜこの言葉を選んだのか?

この謎掛け的なフレーズは、ある曲の引用でもある。
その曲とは、RCサクセションが82年に
発売したシングルレコード「つ・き・あ・い・た・い」の
B面に収録された「窓の外は雪」だ。

窓の外は雪 (作詞:忌野清志郎)

あーあ とうとう裸にされちゃったなんて
言いながら
あの娘が起き上がる朝
窓の外は雪

(中略)

寒いから 寒いから
あの娘抱きしめる
とてもあったかいのさ
窓の外は雪
窓の外は雪
窓の外は雪
(ぼくらは薄着で笑っちゃう)
you tube)(you tube)


いきなり「あ〜あ、とうとう裸にされちゃった」という
印象的なフレーズからはじまるラブソング。
清志郎が掲げるメッセージ「愛しあってるかい?」が
色濃く感じられる歌のひとつだ。
知らない人と接する時、人の心は厚着のままだ。
自分を守るために、探ったり、疑ったり、
素顔も隠そうとする。それが愛されることによって、
脱がされていく、自分も愛しはじめて、
とうとう裸にされる。愛しあうようになる。
「窓の外は雪」の、「薄着」とは、
文字通りの薄着、そして何もかも脱ぎ捨てて
愛しあってる人の心だと思う。
清志郎はイマジンで、
「みんなが同じ人間だと思えば、愛するのはカンタンだろう。
いつか、「薄着」になって愛しあえる時がくるかもしれない」と
メッセージしてるのではないだろうか。

清志郎は、当時、「窓の外は雪」のフレーズを
挿入したことについて、「別に意味はない、似たような
コード進行だから加えただけ」と答えていたそうだ。
曲の中に、別の曲の一節を挿入する、というのは、
珍しいことではない。ビートルズ(ジョンレノン)が
「All You Need Is Love」で、そのようなことをしているので、
それをパロっただけなのかもしれない。
しかし、それにしては見事すぎると
感じるのだが、どうなんだろう?

清志郎の「イマジン」がオリジナル以上だと讃えられるのは、
そのライブパフォーマンスが素晴らしいからだと思う。(you tube
そして、楽曲としては、解釈の見事さもあるのだろうけど、
それだけではない。ひとことの英語も使わず、
完全に日本語の歌詞になっていることだ。
英語で寝言を言うぐらいグローバルな人は別にして、
一般的な日本人なら、英語で歌われるより日本語の方が
グッとくるのはあたりまえのこと。

イマジンは、
そんなカンタンなことが理解できていない
日本の音楽界へのメッセージのようにも感じる。
一度、タイマーズの「ロックン仁義」の
セリフを引用したが、あの歌、あのセリフには、
清志郎のいろんな思いが詰まってるのだと思う。

何をうたってんだか よくわかんねえ 
英語だかなんだか 聞きとれねえような
サウンドばっかりでごぜえやす
           (ロックン仁義 セリフより)

(敬称略)



9へ続く





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