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万城目学「プリンセス・トヨトミ」、読了。 [本]

とある本屋で、文庫本ランキングの1位として山積みに
されていた本。ベストセラーになってる本は、あまり手に
しないのだが、これは、舞台が大阪、しかもひんぱんに
訪れている「空堀商店街」がメインということで、買ってみた。
万城目学さんの小説を読むのも初めてだ。

この作家さんは、リアルな生活を描く小説ではなく、
劇画的なエンターテイメント小説を書く方のようだが、
プリンセストヨトミも、そんな小説だ。
「五月末日、大阪が全停止した。」
そんな意味ありげな序章で始まる、奇想天外な小説。
主要人物は、東京から来た
会計検査院の調査員三人と、
「あるもの」を守る大阪の人々。
中央(東京)と大阪との戦いの物語でもある。

徳川嫌い、アンチジャイアンツ、
東京への対抗意識をメラメラと燃やす。
大阪には、そういう人がたくさんいると思うが、
作家も、その一人なんだろうか。
大阪人の秘めたる思いを
カタチにしたような小説だと感じた。
大阪の街の情景(渡し船、浜寺公園など)が
細かく描かれていることもあり、
大阪人にはいろんな意味で楽しめる小説かもしれない。

そして、男と女では読んだ後の印象がかなり
違うかもしれない。男女平等が当たり前の現代だが、
描かれているのは男社会。
豊臣秀吉のあの時代、男が世の中を制していたあの社会が
密かに継承されているという設定にしている。
だから、そういうストーリーに反感を覚える女性の読者も
いるかもしれない。(女性の方が賢いんだというオチが用意されているが…)
しかし、この小説には、
その設定がどうしても必要だった。
それは、父から息子への伝承が、物語の鍵になっているからだ。
作家さんのことはほとんど知らないのだが、
この小説は、育った街(大阪)への思いとともに、
親(父)への思いを込めて書き上げたストーリーなのではないか?

小説の中で、こんなシーンが出て来る、
登場人物の一人が、ある男に、こう問いかける。
「あなたは、大人になってから、
 一時間でも、父親と二人だけの
 空間で話し合ったことがあるか?」
そして、こう結んでいる。
「そう、男は普通、そんな時間を一生持たない」。

でも、それが必要なんだ、というのが、本に
込められたメッセージのように感じた。
この小説は、その時間を持ったものと、持たなかったものとの
戦いの物語でもある。

父といつかはゆっくり語り合いたい、
そう思いながら時が過ぎ、
それを果たす事なく別れを迎えてしまった、
そんな息子たちの心に響くシーンだと思う。

物語は、500ページ強、
ここしばらく短編ばかり読んでいたので、
読み応えがあった。ただ、話のまん中あたりで、
話があまり前へ進まないので、
少し中だるみした。しかし、
後半部分は、急展開、スイスイと読む事ができた。

「空堀」でロケということで映画の方も、気になってるのだが、
どうやら、原作を大切にしていないつくりかたのようだ。
キャスティングはぜんぜんイメージと合っていないし、
しかも主要キャストの男女が入れ替わっているとのこと。
父から息子への継承というストーリーではないようだし、
見るのなら、別物と考えた方がよさそうだ。

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プリンセス・トヨトミ (文春文庫)

プリンセス・トヨトミ (文春文庫)

  • 作者: 万城目 学
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2011/04/08
  • メディア: 文庫





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