日本のロック・ブルースを語る上で欠かす事のできない一枚。
それが、上田正樹と有山淳司「ぼちぼちいこか」です。
発売は、1975年。まだまだフォークブームが全盛の世の中、
ブルース、ラグタイムを基調にした全編大阪弁のアルバムは、
関西の音楽ファンに衝撃を与えました。当時、音楽を
やっていた学生たちの多くが、このアルバムの曲をコピー。
どこの学園祭でも、どこかで必ず「ぼちぼちいこか」の曲が
聴こえてきたとも言われています。
このレコードは、その後、CD化、
そして再発を繰り返すたびに新しいファンをつかみ、
ロングセラーとなりました。有山さんのライブでは、必ず、この
アルバムに納められている曲のリクエストがあります。
30年以上たった今も、聴き続けられ、そして歌い続けられている
まさに伝説のアルバムです。
名義では上田さん有山さんのデュオアルバムのようになっていますが、
サウストゥサウスのメンバーが参加しているので
実質的には上田正樹とサウストゥサウスのアルバムと
呼べるものでしょう。
このアルバムは、いきなり、おじさんの口上ではじまります。
「にいちゃん、どんな時計はめてる? これ、なんぼすると思う?」
この口上、おそらくは大阪ミナミの千日前に
あった安売り屋のおじさんの声。大阪では名物のようなもので、
みんなその口上を聞きにその店の前に集まったものです。
とてもリアリティがあるんですが、噂では上田さんと有山さんが
実際にテープレコーダーで録音したものだとか。
1.大阪へ出てきてから
口上がフェードアウトしていくと、ホンキートンクなピアノと、
ブルージーなギターが流れてくる。これがすごくかっこいいんです。
そして、♪大阪へ出てきてから、もう一年〜と
上田さんが歌いはじめる。上田さん自身の体験を歌った曲ですね。
演奏は、上田、有山、藤井、中西、正木、くんちょー。
完全にサウスのメンバーですね。作詞作曲は上田さんです。
この曲は、上田さんの新しいセルフカバーアルバム「OSAKA」にも
収録されています。
2.可愛いい女と呼ばれたい
♪好きな、あんたに、可愛いい女と、一度でいいから呼ばれたい〜
これは、いわゆるオネエ系の人にスポットを当てた曲。今から
30年以上も前に、こんな歌がつくられていたんです。
この曲、サウスが何度目かの再結成のとき、正木五郎さんが
歌いました。今でも、五郎さんはこの歌、よく歌うようです。
これも、上田さんの「OSAKA」に収録されています。
ちなみにかわいいという表記、正しい送り仮名は「可愛い」だと
思うのですが「可愛いい」となっています。でも、「いい」と
した方が雰囲気にあってるような気がします。
3.あこがれの北新地
♪わいはいっぺん、ここで、酒を飲みたかったんや〜
このアルバムは一般庶民の生活を切り取ったものですが、
その代表が、この曲。コミカルで楽しい曲なんですが、
どことなく哀愁が漂っています。
作詞作曲は上田さん。演奏は、上田、有山、中西。
4.Come on おばはん
♪ちょっと、小粋な、おばはん、わいと一緒に踊りに行かへんけ〜
放送禁止用語が出てくる、ちょっと危ない曲です。
5.みんなの願いはただひとつ
♪今度給料もらったら、僕は背広を買いたいね〜
私はブラウス、欲しいわ〜
古き良き昭和歌謡を彷彿とさせる歌詞ですね。
上田さんと金子マリさんのデュエット曲。
6.雨の降る夜に
有山さんのギターと中西さんのピアノをバックに、
上田さんがしっとりと歌うブルースです。
7.梅田からナンバまで
♪散歩しましょう御堂筋でも、梅田からナンバまで〜
有山じゅんじさんの代表曲。今でもよく聴かせてくれます。
8.とったらあかん
♪取ったらあかん、と思いながら、つい手が出て…
歌というより語りに近い上田さんのボーカル。
憂歌団にも「ドロボー」という曲がありますが、
当時のバンドはいろんなテーマを歌にしていましたね。
9.俺の借金全部でなんぼや
この曲は三上寛さんが作詞です。
いろんな人に借金して、返して、また借金して、
いまどうなってる?という曲です。
10.俺の家には朝がない
♪生まれたところは、長屋の二階〜
作詞、上田さん、作曲、有山さん。
最初、上田さんが自分の歌詞に
シャッフルっぽい曲をつけたんだそうですが、
有山さんがそれは違うと反対。曲を書いてみたそうです。
このほうがいい、ということになって、
じゃ「有山歌えよ」となってできあがった曲だそうです。
11.買い物にでも行きまへんか
大阪のいろんな地名が出てきて、
とても楽しい曲です。有山さん、作詞作曲。
12.なつかしの道頓堀
♪恋と夢とに包まれた、人波つづく、この道を〜
この歌には、大阪の情、優しさ、そんなものが
込められているような気がします。
最後を飾るにふさわしい名曲です。
このアルバムのジャケットにも使われている
道頓堀の「くいだおれ」の閉店が決まったようです。
時代の流れかもしれませんが、さみしい話です。