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忌野清志郎の頭の中(9)最後のテーマ。 [音楽(忌野清志郎)]

忌野清志郎が亡くなった年、あるシンガーが、
「逝っちまったね。でも、好き放題やったんだから」と
ステージでつぶやいた。
清志郎は、驚くほど正直な人だったんだろうと思う。
感じた通りに動く、感じたことを歌にする。
まさに、どんなことでもロックにしてしまった。
人生を、自由奔放に楽しんだ人なんだろう。
でも、それは、とてもハードな日々だったはずだ。

自由を阻む、規制やタブー、目に見えない権力。
ほんの少し妥協すれば、ラクできたはずなのに
清志郎はそうしなかった。
それは、性分というか、清志郎の根っこに
あるものがそうさせたのではないか。
そして、ロックンローラーであり続けるために、
相当無理した部分もあるのではないか。
タブーに挑む、権力と戦うだなんて、どんなに神経の
太い人間だって、クタクタになるはずだ。
あんなに繊細な歌を書く人、心もそうだろう。

清志郎は「ロックン仁義」を貫き
それと引き換えに多大なストレスを抱えたはず。
その強い意志が命を縮めたのではないか。
突然襲った病魔、喉頭がん。
清志郎は、それでも歌いたいと考えた。
声を失うなんて、ありえない選択だったんだろう。
だから歌うという選択、
がんを切除しないという道を選んだ。

完全復活祭の追加公演、大阪フェスティバルホールで
清志郎は、ガンについて語っていた。
「今、4人に1人がガンで亡くなっている。
そのほどんどが治療が原因で亡くなっているんだ」
「今はその時期じゃないが、いつか
そのことについてメッセージしたい」と、
そんなような内容だったと思う。

忌野清志郎の次の歌のテーマは、
ガン治療についてだったはずだ。
タイマーズでイツミさんという曲を発表しているが、
おそらく、その延長線上にあるものだろう。
歌いたいから歌う、ではなくて、
歌わなければならない。
そんな強い思いで
取り組んでいたのだろうと思う。

清志郎は昔から、東洋医学に傾倒していた。
医者にもう治らないと見離された肝臓の病を、
東洋医学を研究し、自ら実践することで、
奇跡的に完治させている。
喉頭ガンの治療も、抗ガン剤の副作用が
強すぎるという理由で、途中から
代替医療という民間療法に切り替えていた。
ガンに勝つこと、そしてガン治療をテーマとした
歌をつくること。

そんな最後の夢はかなわなかった。



今回で、「忌野清志郎の頭の中」というタイトルの記事は
最後にしようと思う。どこかで紹介(引用)しようと
思いながら、適した場所が見つからず、そのままにしていた
文章がある。締めに使わせていただく。

 清志郎が「KING」とか「GOD」ってアルバムを作ったから
 といって、やれ「キングオブロックンロール」だとかさ、
 ましてや彼を神様になんかしちゃダメなんだ、絶対。
 あいつが自分のことをゴッドだなんて思ってるわけないんだから。
 ある種のシャレみたいなところでそういうタイトルを付けて
 いたことをわからなきゃ。彼は宗教なんて大嫌いだって言ってた。

 あいつはすぐれたヴォーカリストだけど、人間として
 全然完璧なんかじゃないし、キヨシのなかにもダサイ部分や
 だらしないところがある。それが人間だ。だから曲を作るんだ。
 ミュージシャンってのは音楽がないとコミュニケーションが
 うまく出来ないから、だから曲を作ったりギター弾いたり
 歌ったりしてるんだ。それを偉大だの神だのと讃えちゃうと
 もう誰も何も批判できなくなるわけだよ。そういうのは
 キヨシ自身、一番嫌がることだと思う。(加奈崎芳太郎)

             「ぼくの好きなキヨシロー」(WAVE出版)より

(敬称略)



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